特定非営利活動法人 グリーンラインを愛する会

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13,グリーンラインの松枯れ

13,グリーンラインの松枯れ

さて今度は「グリーンラインを愛する会」が取り組んできた「松枯れ木の伐採」などの活動について触れてみよう。
良く知られているところではあるが、広島県は松枯れの被害林の面積が全国で最も広い県である。松枯れはこれまで主な原因と考えられていた「松食い虫」による被害と言うよりも、実は大気汚染やそれが雨、霧や露にとけた「酸性雨」や大気汚染そのものの影響の方が大きいことが指摘されている。事実グリーンラインに於いても、JFEや箕沖工業団地に面する東側斜面が激しく犯されている。大気汚染に対する環境基準が強化された頃を境に、被害の拡大ペースが低下したこともこのことを裏付けているのではないか?
そのような議論はさておいても、グリーンラインもご他聞に漏れぬ惨状であった。路側の松の木でさえほとんどと言って良いほど枯れており、少し風が吹いた翌朝は何本もの松の木が道路をふさいで通行不能になっていた。道路でさえこうだから、その他の場所は推して知るべしである。当時のエピソードを思いつくまま幾つかあげてみたい。
まず道路の状況であるが、先にも述べたように少し風が吹く度に何本もの倒木が道路を塞いでいた。無論道路を管理する広島県福山地域事務所も業者に道路パトロールを依頼して、倒木を発見し次第撤去はしていた。しかしパトロールをしなかった日や、風の吹いた翌日の午前中などは倒木はそのままとなり、これで事故が起きなかったのが不思議なくらいである。しかし私は決して事故が起きてなかったわけではなく、届け出る人がいなかっただけなのではないかと信じている。なぜなら私自身が2度に渡って倒木に遭遇し、一度は急ブレーキを踏んだものの枯れ木を踏み潰して停車する仕儀となった経験があるからだ。
そしてもう一回は私にかけがえのない出会いを用意してくれた。今回はこの話をして、県立後山公園の遊歩道での遭難事件(?)は次回に話したいと思う。

それは2000年の秋のある日のことだった。私はいつものようにパトロールをしていた。ヘアピンカーブを気持ちよく曲がった私の目前に数本の松枯れ木が飛び込んできた。とっさに私はブレーキを踏んで減速したが、その倒木の前の路上に一人の若者が立っているのに気付いた。「あぶないなあ・・・」私は松枯れ木とその若者につぶやいて車を路側に止めてハザードを点灯させておいて、車を降りて若者に近づいた。
彼は肩からカメラをぶら下げていた。最初は「趣味のカメラマン?」とも思ったがどうも様子が違う。「君は新聞社の方?」と聞く私に彼は「どうも」と言いながら名刺を差し出した。某地方紙の記者であった。事情を聞くと彼は最近転勤で福山に来、今日はたまたまグリーンラインの様子を取材がてら見に来ていたのだという。
「いつもこんなんですか?」と聞く彼に「ああそうだよ」と答えた私に更に彼が「どうして?」と聞く。どうしてと言われても答えようがない。答えを待つ彼に私は、自分がグリーンラインを愛する会というボランティア団体の世話人(当時)であり、これこれこのような趣旨で活動を始め、こんな事をやっているのだと言うことをかいつまんで話した。
彼も愛する会の事は知っていた。「あなたが丸山さんですか?一度お会いしようと思っていたところです。こんな形でお会いできるとは幸運です。」と彼は言った。
私は「ま、この木にも君にもぶつからなかったから幸運であることは確かだよね。」と笑った。彼も「そうですね。それにここで取材させていただけば一石二鳥ですね。」と笑った。とても爽やかな明るい笑顔だった。これを縁に彼とは現在まで親交が続いている。
それだけでなく、彼は愛する会と私のかけがえのない理解者として、また支援者として、本当に大きな役割を果たしてくれている。彼とはこのあとグリーンラインにある唯一の喫茶店、「メルシー」に移動して数時間に渡り色々な話をした。余談になるがここのテラスから見る瀬戸内の海は絶品である。穏やかな昼下がりなど、何時間座っていても飽きない私のお気に入りの場所である。それはさておき・・・。
彼は最初に「どうしてこれだけの自然、これだけの景観に恵まれた場所が、これ程までに荒廃したままになっているのか」と私に聞いた。私が「行政の怠慢かな。一旦作った道路を維持管理するのは行政の責任なのに、長い間放置していたわけだから。」と答えたら彼はこういった。「確かにそのような話は何処でも聞きますね。でも丸山さん。仮にそうだとしても、何故住民の皆さんはその行政の怠慢を指摘し、行政にちゃんとした仕事をさせなかったんですか?」と聞いてきた。私には答えられなかった。
彼は続けた「丸山さん。僕は色々な街で勤務してきました。色々な人たちに会ってきました。その中で地域の活性化にしろ、環境の保全にしろ、行政の怠慢という現象の裏には、住民の怠慢があることに気付いたんです。怠慢という言葉がきつければ意識レベルの低さと言っても良い。住民が熱意を持って地域の問題に取り組むことをしないで、何でもかんでもお役所に任せっぱなし、お役所におんぶにだっこ・・・これじゃあ行政マンだって熱意を持って仕事に取り組む気にはなれないのと違いますか?
それともう一つ、そこに住む人たちが自分たちの持っている宝物の価値に気付いていないことも多いような気がします。このグリーンラインだってそうです。鷲羽山にも、屋島にも、六甲にも負けない素晴らしい景観と自然がある。いろんな街を見てきたよそ者の僕には良く分かる。でも、地元の人たちは気付いていない。だから荒れ果てて、昼でも車が通らない。地域にとっても、行政にとってもお荷物以外の何物でもない場所になっている。よその街は気付いているからこそ、行政も住民も一体となって観光開発や環境の保全に取り組んで、あれほど素晴らしい観光地になって、大勢の観光客が訪れている・・・。」
熱っぽく語る彼の言葉は、テラスを渡る風とひとつになって私の心を吹き抜けていった。

taiyo13
私とY記者のお気に入りの場所、喫茶メルシーのテラス

大陽新聞連載~よみがえれグリーンライン~

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